大切な人 〜水無月 琴子〜

 

 

 

 

・・・うかつだったわ。

水無月琴子は自分の部屋で机に突っ伏すと、深いため息をついた。今日の

動物園での出来事が頭の中をグルグル回る。

アイツと、遊びに行くのはこれが何度目のことだろう。

きっと、慣れてきていたから・・・。

 

「ねえ、友情と愛情、あなたならどっちをとる?」

 

ああ〜もうっ。

突っ伏したまま、琴子はぶんぶんと首を振る。深い、後悔の念。

なぜ、あんなことを言っちゃったんだろ・・・。

アイツの、ちょっと困ったような、戸惑ったような顔。思い出すだけで、今

からでも取り消したいような、そんな恥ずかしさで一杯になる。

・・・アイツ、まさか誤解したんじゃないでしょうね。

琴子はハッと顔を上げる。

な、何で私があんな奴のこと・・・。そりゃ、最初の印象よりはずっといいと

思うけど・・・意外に男らしい所あるし、気も利くし・・・だけど・・・。

「だけどっ、アイツは最っっ低なのよ!」

思わず声に出し、ドンと机を両のこぶしで叩いてから、琴子は我に返った。

・・・私ったら・・・何をムキになっているのかしら・・・馬鹿みたい・・・。

誰も見ていないのに、赤くなりながら立ち上がった琴子は、倒してしまった

写真立てを直す。

春の日差しのあふれる中。同じひびきの高校に入学できた記念に、光と二人

で撮った写真。

私が男なら、光を選ぶわ。

琴子は、光の輝くような笑顔に背を向ける。

・・・アイツも、きっと光を選ぶわ。

 

「水〜無月さん、ちょっといいかな?」

翌日、琴子は教室で一人のクラスメートに声をかけられた。

・・・坂城匠。

持ち前の童顔とマメさで、女生徒にはやたらと評判がいい。はっきり言って

琴子の嫌いなタイプなのだが、嫌いになりきれないのはやはり人徳なのだろ

うか。

「何か用?」

心もち冷たい口調にもめげることなく、

「いやあ〜たいしたことじゃ、ないんだけどさ」

と、笑顔を崩さない匠。

「1年のとき、クリスマスに4人で遊園地に行ったこと、覚えてる?」

「ああ・・・」

琴子は、その時のことを思い出して、少し表情を和らげた。

ぜんぜん乗り気じゃなかったけれど、光にどうしてもと頼まれて付き合った

一日。だけど、思った以上に楽しく過ごせたという記憶が残っている。

「そのときに、またこのメンバーで来よう、って言ってただろう?それ、今

度の日曜日にどうかなって」

同じメンバーってことは・・・。

あの時、自分の隣には、なぜかいつもアイツがいた。

光の、しょんぼりした顔。怒ってアイツにかけた電話。

「私は・・・」と、琴子がためらいがちに口を開きかけたとき、匠が言った。

「光ちゃんも、楽しみにしてるってさ!」

・・・光が・・・。

「ええ、いいわ」

「そっか!良かったよ」

じゃあね、と軽い足取りで戻っていく匠を見ながら、琴子は何度も同じ言葉

を繰り返していた。

これは、光のためなのだ・・・と。

 

放課後、琴子は校舎の裏手にある茶室に向かって歩いていた。今日はクラブ

の日ではなかったが、昨日から乱れつづけている心を静めたいという目的が

あった。

にじり口の戸にそっと手をかけ、琴子はふと、中に誰かが居ることに気づい

た。そっと覗くと

そこには目を瞑り、静かに正座している男子生徒の姿があった。

・・・アイツ、また来てる・・・

特に用事がなくても、茶室に足が向く琴子と同様、彼もよく顔を出す。どう

せ幽霊部員になるに違いない、と踏んでいた琴子の予想を大きく裏切って

彼は人一倍熱心な部員であった。

こうしてみると、ピンと背筋を伸ばしているその姿は、穏やかでりりしい。

と、見られていることに気づいたのか、彼が不意にこちらを向いた。

「あれ、水無月さん」

「・・・どうも」

琴子はにじり口をくぐると、茶室へとあがった。そのまま所在なさげに突っ

立っていると、彼は気を利かしたのか立ち上がった。

「じゃ、俺は帰るから」

「あ、待って!」

思わず呼び止めたが、言葉が出てこない。黙っている琴子を、彼はいぶかし

げに見つめた。

「あの、に、日曜日のこと・・・聞いたわ」

「そっか。楽しみだよな」

彼はニコッと笑顔になったが、琴子の表情は硬いままだ。

「・・・今度は気をつけてよね」

「え?」

「え、じゃないわよ!」

首をかしげている彼に、琴子はなぜかイライラしながら続ける。

「前のときみたいに、光のこと放っておかないでってこと!今回もあの子

すっごく楽しみにしてるんだから」

「・・・水無月さんは?」

「えっ」

「水無月さんは、楽しみじゃないの?」

予想もしなかった問いに、琴子は一瞬答えに詰まる。

私は・・・。

「わ、私のことはどうだっていいでしょ?それより、遊園地では光のそばに

いればいいのよ、あなたは!」

そこまで一気に言って、琴子はハッと気がついた。目の前の彼が、今まで見

た事のない表情をしていることに。

言いすぎた、と思ったものの、言葉はもう取り戻せない。

「な、何よ・・・何か、言いなさいよ」

それでも精一杯強がりを言う琴子に、彼はくるっと背中を向ける。そして

にじり口で靴を履いたあと、

「・・・そうするよ」

と、ポツリとつぶやき、出て行ってしまった。

琴子は、その場にぺたんと腰を落とす。深い後悔の念に、寒気を覚えて自分

の肩を両手でぎゅっと抱いた。 

だって・・・光が・・・

心に言い訳をする自分が、たまらなく嫌だった。

 

「どうしたの、水無月さん。気分悪い?」

観覧車の中でぼんやりしていた琴子に、向かいに座っている匠が聞いた。

「え・・・あ、ごめんなさい。大丈夫」

日曜日の遊園地。晴天に恵まれて、まさに絶好の行楽日和だった。

が、澄んだ青空に反して琴子の心は沈みがちだ。向かいで匠が話すことを

うわの空で聞きつつ、視線はいつのまにか前のゴンドラに乗る2人を追う。

・・・アイツの隣には、やっぱり光が似合う。

琴子との約束どおり、今日の彼はずっと光のそばにいる。今も2人は肩を寄

せ合って、地上を指差しながら楽しそうに笑っている。

・・・これでいいのだ。

胸が痛いなんて、きっと気のせい。

琴子が無理やり自分に言い聞かせていたとき、不意に匠が言った。

「水無月さん。本当に大事なものは、たとえ親友でも譲ったりしちゃいけな

いよ」

「えっ・・・」

琴子はハッとして顔を上げるが、匠は今言ったことを忘れたかのように、の

んびり空など見上げている。

やがて、ゴンドラは地上に降りた。

・・・たとえ、親友でも・・・

「琴子〜いい眺めだったね!」

・・・ゆずったりしちゃ・・・

駆け寄ってくる光に笑顔を返しながらも、琴子は匠の言葉を反芻していた。

 

・・・疲れたわ。

どこかで何か食べて帰ろう、という誘いを断り、琴子は一人でバス停までの

道をのろのろ歩いていた。

・・・バス停まで、こんなに遠かったかしら・・・

重い足を引きずりながら、ぼんやり考える。

確か、前に来たときは・・・

琴子は、パタッと足を止めた。

「そっか、アイツが一緒だったから・・・」

アイツが一緒だったから、遠さも気にならなかった。

前に来たときにはあんなに楽しかったのに、今日は全然楽しくなかったのも。

全部、アイツの・・・

とその時、琴子の耳に自分の名前を呼ぶ声と、後ろから走ってくる足音が聞

こえた。

まさか・・・

振り向いた琴子の目の前には、息を乱しながら走ってくる彼の姿があった。

「ハア・・・よかった、追いついて」

そういって笑う彼に、琴子は呆然としつつも言い返す。

「よかったじゃないわよ!光は?」

「光なら、匠と一緒にメシ食いに行ったけど」

「アナタは何をしてるのよ!?」

「なにって・・・」

変なことを聞くなあという顔をしつつ、彼は答える。

「水無月さんを追いかけてきたんだけど。一緒に帰ろうと思って」

「だって、今日は光と一緒にいるって・・・」

「遊園地では、だろ?約束したのは」

・・・あ・・・

その言葉に、不覚にも一瞬彼の姿が曇る。

琴子は、あふれそうになる涙を慌ててこらえた。

「・・・水無月さん?」

「な、何でもないわよ」

琴子はくるっと彼に背を向ける。

・・・本当に大事なもの。

それに、ようやく気がついた。

「ありがと」

小声でつぶやく。

どうやら聞こえたらしく、彼はポンと琴子の背中をたたくと、そのまま先に

立って歩き始めた。

「走ってきたから、腹減ったなあ・・・」

情けない声にクスッと笑うと、琴子は彼の隣に並んだ。

「じゃ、何か食べに行きましょうか」

いいねえ、と答える彼。

「それと・・・今度は2人で来ましょう、ね?」

そういって琴子は、今日一番の笑顔を向けた。

 

彼女の、一番大切な人に。

 

END


 

初めて書いた、ひび高著名人さんの小説です。

琴子ちゃん・・・1度でいいから、会ってみたかった(泣)

って私、どの著名さんにもお目にかかったことなかったですけどね(苦笑)

なんとなくイメージが湧いて、すぐに書き上げてしまいました。

彼女のように、内面ですごく可愛らしい人がとても好きなもんで。

 

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