Dream 〜佐倉 楓子〜

 

 

 

 

「・・・悪いけど、俺・・・あんまり、付き合うとか興味ないんだ」

「え・・・」

「今は、電車追いかけてるほうが楽しいし。・・・ごめんな」

それは、伝説にならなかった卒業式のひとコマ。

ヒロインになれなかったのは・・・。

 

佐倉楓子は、短大の帰りに駅のそばの手芸店へと立ち寄っていた。

今は、秋の初め。まだ編物をするには、少し早い季節とも言える。

けれども、楓子にとっては編物をしている時間が一番好きだった。

大好きな人のそばで、大好きな編物をする。それが、彼女の夢だった。

1度は、諦めてしまった夢。

だけどまだ、忘れられそうにもない夢。なぜなら・・・。

短大への入学当時。

新入生の勧誘を目的とした、各大学からのサークル参加攻撃にも、ずいぶん

慣れて来たあの頃。

彼女は、友人に付き合ってある大学のサークルへと顔を出していた。

サークルとか、そういうのには余り興味のなかった楓子であったが、その時

ふと友人に付き合ってしまったのは『旅行研究会』というサークル名の影響

だった。

旅行。

その言葉を聞くと、大好きな・・・いや、高校時代大好きだった彼の事を思い

出す。

彼が好きなのは、電車だった。

大きなカメラを学校に持ってきているのを何度か見たし、長い休みの時には

撮影旅行に行っているらしかった。

楓子の好きなサッカーや野球も得意ではないし、クラスではあまり目立たな

かった存在。

そう、だけどあれは、ひびきの高校を転校する時。

さびしさをふと漏らした彼女に、大門市からひびきの市へ来る一番速い電車

を教えてくれた。

『佐倉、これで来れば大門市からここまでなんかすぐだって』

今から考えれば、とんちんかんな慰め方だったけれども、それでも彼の優し

さに思わず笑ってしまったんだっけ。

・・・転校直前に、それに気づくなんて遅すぎたけど。

だから、あの伝説の鐘は鳴らなかったのかもしれないけど。

それでも、神様はいるのかもしれなかった。

なぜなら・・・。

『あ・・・さ、佐倉・・・さん?』

旅行研究会に入り、最初の新歓コンパの日。

楓子は、彼と再開した。よりにもよって、そのサークル内にて。

最初こそはぎこちなかったものの、大勢いるサークルの1回生たちの中。

もともとのクラスメートということで、仲良くなり同じグループへと所属す

るようになるのに時間はかからなかった。

嬉しいような、複雑なような。

だけど、彼の目に映っているのは、やっぱり電車だけなのであった。

そして、9月の後半。新学期が始まってしばらく経つというのに、彼はまだ

大学に姿を見せてはいないらしい。

そのうち来るって、なんて皆は笑っているけれど。

楓子にとっては、ちょっと心配なここ数日であった。

・・・未練がましいかなあ、こういうのって。

と物思いに耽りそうになった、その時。彼女の目の前を、大きなリュックサ

ックが横切ろうとした。

まるで、彼女の体ごと入ってしまいそうな大きさに、思わず少し身を引く。

その拍子に気配を感じてか、持ち主が振り返った。

「・・・あ」

「あれ?佐倉?」

楓子は、驚きのあまり声も出さずに相手を見つめる。

彼女が焦がれて止まない存在が、そこにあった。

「何やってるの?」

思わず重なるセリフ。

「何って、旅行の帰りだけど・・・」

・・・やっぱり。

彼の予想通りの答えに、苦笑してしまう楓子。

そんな彼女の反応に、彼は不思議そうな顔をした。

「・・・え。も、大学始まってるの?」

「うん」

「・・・しまった、俺、明日の月曜からだと思ってたよ・・・」

立ち話をしていたもののここじゃなんだから、と駅前のドーナツ屋へ。

2人で向かい合って、ドーナツを食べる。

大学の構内では時々あったことだけど、こんな風に外で2人でいることは初

めてなので、ドキドキしてしまう。

「・・・どこへ、行ってたの?」

「ああ、北海道だよ」

「北海道?!」

ああ、と真っ黒に日焼けして、目の前で笑う彼。

ふと、どこまでも続く広い台地で、カメラを構えているその姿が楓子には見

える気がした。

「旅研の旅行は、どうだった?」

「あ、うん。楽しかったよ」

あなたがいなくて、残念だったけど。それは、楓子の心の声。

「そっか。行きたかったんだけどなあ。どうしても、シロクニの復活と重な

っちまってな」

「・・・シロクニ?」

「ああ、SLだよ。C62・・・っても、わかんないか」

苦笑する彼に、思わず楓子は言っていた。

「ううん。良かったら、話聞かせて?」

 

「じゃ、また明日大学で」

「うん、じゃあね」

手を振って去っていく彼を見送ると、楓子はふうっと息をついた。

こんなに話したのは、初めてかもしれない。

・・・もっとも、彼の話している内容は半分くらいわからなかったけれども。

電車の何がどういいのかちっとも分からないし、そのわからないものと自分

を比べられて結局負けてしまったんだから情けないけれど。

それでもいいか、という気がしてきた。

北海道でのことを、楽しそうに話している彼は魅力的だった。

サークルの中では、歩く時刻表、みたいなイメージでちょっと異色の存在と

して、皆からは受け止められているけれど。

今回の、大学が始まっても現れないっていうのには、『どっかへ、行ってる

んじゃないの?』ってのが皆の統一見解で。

そんな風に、自分の居場所をしっかり持っている彼。

やっぱり、変わらず・・・ずっと、好きな人。

彼は彼で、夢があるらしい。いつか、自分の旅行記や写真集を出したいとい

う。

それならば、私も夢を諦めずにいよう。

いつか、彼の隣りで・・・。

 

それから、楓子は彼と仲のいいサークル仲間としての日々を過ごすことにな

る。

ただ、前までとは違って、時々2人だけで話をするようになった。

ほとんどは、彼の電車の話を聞くことが多かったんだけれど、それでも楓子

は楽しかった。こうやって、友達としてでも彼のそばにいられればいい。

その年の冬には、彼の手には楓子特製の『指なし手袋(撮影用)』がはまっ

ていた。

 

 

そして、10年後。

 

 

楓子は、幸せな気持ちで編物をしていた。

時々、手を止めては大きなお腹をいとおしそうに撫でる。

やがて生まれてくる、この子の為。大好きな存在のために編物をしている。

そう、そしてもう一人・・・。

自分の隣りで、同じようにニコニコしながら座っているひと。

「やっぱりさあ、男だったら『つばさ』か『北斗』かなあ〜」

「ね、『銀河』は?」

「『銀河』か・・・女の子でもいいかもな♪」

「女の子なら、『こまち』か『さくら』がいいわね」

「あはは、迷うなあ〜」

楓子は、クスクス笑う。

大好きな彼と、子供の名前を考えているのが夢のようで。

そう、これはずっと夢だったこと。

だけど、夢は必ずかなうと知った。諦めさえ、しなければ、ね。

 

END

 

初出:ひびきの高校鉄道研究部会誌

「電車でメモリアル〜The History of “Hibitetsu”〜」


 

EDお断りバージョン、その後ってとこでしょうか。

会誌に書くために話を考えていたのですが、いい加減ネタに詰まっておりま

して。

そのときに思い出したのが・・・まあ、最後の辺りの会話をした記憶でして・・・

(再び遠い目)

楓子ちゃん相手、ってのが一番らしいかなと。

でも私、彼女のイベントほとんど見てないんですけどね()

 

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