Alternative 〜陽ノ下 光〜

 

 

 

 

「悪い!今日の映画、パスさせてくれっ!!」

「・・・え?」

目の前でいきなり手を合わせられて、陽之下光は戸惑ったように聞き

返した。

「・・・その・・・東京から『夢空間』がやって来るんだよ・・・今日だってこ

と、すっかり忘れててな、俺・・・」

「う〜んと・・・ようは、珍しい電車が来るから、撮りに行きたいってこ

とだよね?」

「その通り!さすが、光!」           

光は、照れたように笑う。

「当たり前だよ・・・君のことだもん、そうだろうと思った。いいよ、行

ってきて?」

すまないな、この埋め合わせは必ずと、遠くで叫びながら走っていく

彼の姿を見送って、光はふうっと軽くため息をつく。

「全く・・・呆れた男ね。大学生になってまで、あの調子とは」

冷たい口調でそう言ったのは、彼女ではなく・・・。

「琴子!・・・見てたの?」

「ええ。最初っから、ね」

光の親友・水無月琴子は、さらっと長い髪をかきあげてつぶやく。

「声かけてくれれば、良かったのに」

「遠慮したのよ、一応ね・・・用事がなくなったのなら、お茶しに行きま

しょ」

 

琴子の言うお茶とは本当にお茶のことで、2人は大学の前にある甘味

屋へとやってきた。店内には、同じ大学の生徒たちの姿がちらほら見

られる。

「・・・あの男も本当に相変わらずね」

「仕方ないよ〜。彼は、小さい時からずっと、電車が好きなんだもん」

光は苦笑しつつ、あんみつを口に運ぶ。その向かい側で、慣れた手つ

きで琴子が茶せんをまわす。

「好きだからといって、許せることと許せないことがあるわよ」

「・・・琴子ったら。もう、高校の時から彼には厳しいんだから・・・」

自分で点てた抹茶を一口飲んで、琴子は真っ直ぐに親友の顔を見つめ

る。

「あのね、光。あなたは少し、甘すぎるわよ?」

「そ、そうかな・・・」

「そうかな、じゃなくてそうなの。だいたい彼女との約束を反故にし

てまで、電車の写真を撮りに行くなんて、どういうことよ?」

勢いよく飛び出す容赦ない言葉に、光は首をすくめて聞き入る。

「だ、だからそれは・・・さっき言ってたもの、わざわざ東京から珍しい

電車が来るんだって。今日を逃すと、撮れないのかもしれないじゃな

い?映画だったら、いつだって行けるし・・・」

「それが甘いのよ!」

どんっ!と机を一つ叩き、琴子がきつい口調になる。周りがなんだな

んだと注目する中、彼女は続けて言った。

「いいかげんにしておかないとね、ああいう男は、すぐに付け上がる

のよ?」

「そ、そんなことないよ・・・彼も、気を使ってくれてるっていうか・・・」

「どこが?!あんな、鉄道オタクやめなさいって!」

「こ〜と〜こ〜!!!それは言わない約束でしょう!!」

今度は光が、どんっ!と机を叩き返す。

店全体が注目する中、2人の睨み合いは続き・・・。

「・・・ま、とりあえずあなたがいいなら、いいんだけど」

「うんうん♪」

「この和菓子、結構美味しいわ」

「このあんみつも、美味しいよ!」

そして、何事もなかったかのように笑い合う。周りに緊張を与えるだ

け与えて、2人の言い争いは急速に収縮するのは、いつものこと。

光には、わかっている。なんだかんだと言いながらも琴子は決して、

彼のことが嫌いなわけではない。もし、本当に嫌いなら、高校の時に

もっと大反対を受けていたはずだから。

ただ、心優しい親友は、何よりも自分たちの事を気にしてくれている

ということだ。

「でもねえ、光・・・」

「ん?なあに?」

琴子は、少し心配そうな顔つきで言う。

「あんまり、我慢しない方がいいわよ?」

「・・・うん。ありがと、琴子」

光は素直に、うなずいた。

 

やがて12月も半ばを過ぎ、2人にとって初めての年末年始は目の前

だった。

光は、大学からの帰り道で、かねてからの計画を提案してみる。

「年越しで、遊園地へ?」

「そうなんだよ!カウントダウンも、あるんだって・・・ねえ、行ってみ

ようよ?」

弾んだような光の声に、彼は少し戸惑った顔つきになる。

「ん・・・」

煮え切らない返事に、光は眉をひそめた。

「・・・なあに?何か、用事?」

「あ、いや・・・別に、用事ってわけじゃ・・・」

あやふやな答えを返した彼の携帯電話が、タイミング良く鳴り始めた。

「あ、ちょっとごめんな・・・」

一応断りをいれて、彼は電話に出る。

「・・・もしもし?・・・ああ、なんだお前か・・・え、日曜のダイヤ?ちょっ

と待てよ・・・」

どうやら、電話の相手は趣味関係の友達らしい。

・・・そういえば、明日の日曜も撮影に行くって言ってたっけ。

光にとって、彼の大好きな電車のことは未知の世界だ。だけど大好き

な彼の、大好きな趣味のことは、理解しようとは思っている。

一応、これでも勉強もしているのだ。彼が毎月買っている電車の雑誌

には、すみからすみまで目を通しているし。

しかし、興味がもともとないものだから、どうしても覚えるのは大変

で・・・。

結局、彼の話は半分ぐらいわからないまま、相槌を打つのが精一杯と

いうのが現状。

・・・だから、こんな風に自分にわからない話をされているときは。

時々、不安になるのだ・・・自分の居場所が、彼の隣りにあるのかどうか

を。

彼の頭の中は電車のことばかりで、自分の存在が希薄なような気がし

て・・・。

その時、光の思考は彼の「年末は・・・」という言葉で遮られた。

「年末は・・・ん・・・ちょっと、無理かもな。ああ、リバイバルだろ?わ

かってるよ・・・だけどな、やっかいなことになりそうでな・・・」

・・・やっかいなこと?それって、私?

光は、愕然とする。

そうか、彼には計画があったんだ・・・多分、電車の撮影の。

だけど、私が予定を言ったから・・・。

「とにかく、後でまた連絡するから」

電話を切った彼が振り向き見たものは、うつむいたままの光の姿だっ

た。

「・・・光?どうしたんだよ?」

「・・・私って、やっかい者なの?」

「・・・え?」

「・・・電車と私と、どっちが大事なのっ?!」

一瞬。ほんの一瞬だったけど、顔を上げた光の瞳に映ったのは、戸惑

った中にもうんざりしたような彼の表情。

次の瞬間、光はきびすを返して走り去っていった。

「待てよ、光!」と叫ぶ彼の声には、耳を貸さないまま。

 

翌日の日曜日は、良く晴れた小春日和だった。

・・・この分なら、きっと写真も綺麗に撮れてるんだろうな・・・。

散歩がてら、近くのスーパーまで買い物を頼まれた光は、降り注ぐ日

差しを仰ぎ見る。が、とっさにそんなことを思った自分を、ぶんぶん

と首を振って否定する。

いいんだもん、もう・・・彼なんか、電車を追いかけてどこだって行けば

いいんだから!

昨日の夜に彼から何回も電話がかかっていたようだが、お母さんに頼

んで寝ていることにしてもらった。

・・・・・・・・・はふ。

買い物かごを抱えて、光は深い深いため息をつく。

電車と私、どっちが大事なの・・・なんて。

一番、言いたくない言葉・・・一番、聞きたくなかっただろう言葉を言っ

てしまった。

彼と付き合うようになった時、これだけは言うまいと思っていた。

どうしようもない自己嫌悪に、気分は沈む一方だ。

やがて、見えてきた自分の家と・・・その前に立つ、人の影。

「・・・え?」

それが、撮影に行っているはずの彼だと気づいた瞬間、光は走り出し

ていた。

「な・・・何してるの?撮影は?」

「・・・バーロ。あんな気持ちで、行けるかよ・・・ちょっと、歩こうぜ」

先に立って歩く彼の後を、光はついていく。

やがて2人は、近所の河川敷までやって来た。堤防に、並んで腰をお

ろす。

「あの・・・」

言いかけた光の言葉を遮って、彼がおもむろに切り出す。

「・・・え〜とだな、年末のことだけど・・・実は、リバイバルトレインが

走るんだ」

「・・・リバイバル?」

彼の説明によると、かつては走っていたものの、今は廃止されている

電車があるとのこと。それが、この年末年始の間だけ復活して走るら

しい。

「それを撮りに行くかどうか、皆で相談している最中だったんだよ。

だから、ごまかすような言い方になっちまって・・・ごめんな」

素直な彼の言葉に、光は心の中のわだかまりが小さくなっていくのを

感じる。

「あ、ううん・・・私こそ、君の予定も考えないで・・・ごめんね。嫌なこ

と、言っちゃって・・・」

彼は、曖昧に笑ってみせた。気にしてないよ、というように。

そのまま2人は、何の話をするともなく、一緒に座っていた。

やがて。だんだん落ちてきた夕陽に、2人は立ち上がった。

「帰ろうか?・・・あ、いっけない・・・私、買い物かご下げたままだ・・・」

「・・・光」

振り向いた光に、彼がそっと顔を寄せる。

触れるだけの短いキスの後、彼は赤く染まった顔できっぱりと言った。

「俺にとって、一番大事なのは光だから。電車よりも、何よりも」

「え・・・」

光は、あっけにとられたように彼の顔を見つめる。

その彼の姿が、なぜかぼやけてきて・・・。

「・・・あー・・・コラ、泣くな。全く・・・」

彼はそっと腕の中に、光の身体を抱え込む。

「・・・って言っても。二者択一は出来ないんだ、本当は。俺にとっては、

光とこの趣味は全く別の次元で大事な存在だから」

だけどな、と耳元でささやく優しい声に、光は聞き入る。

「もし・・・もし光が嫌なら、この趣味はあきらめるよ。趣味は別のこと

も考えられるけど、光は・・・俺にとっての光は、唯一の存在だからさ」

一瞬戸惑ったものの、すぐに光は首を横に振る。

「・・・嫌じゃないよ・・・大事にして?」

「・・・そうか?」

「うん。だって・・・」

光は、とびっきりの笑顔で彼にぎゅっとしがみついた。

「私が好きになったのは、いつもキラキラした瞳で電車を追いかけて

いる君だもん」

 

時々は、わからない話にやきもちも妬くけれど。

だけど、電車が好きな君も含めて、全部の君が大好きだよ♪

 

END

 

初出:ひびきの高校鉄道研究部会誌

「電車でメモリアル〜聖地をすべて巡礼せよ〜」


 

鉄研の会誌作品・第2弾。実は、こっちの方が評判いいです。ハイ。

まあこれも・・・ある意味、実話が含まれてますねえ(苦笑)

電車好きな人の彼女でいることは、なかなか難しいです。向こうの趣

味は、あんまり理解できないし、しようと思ってもかなりしんどいし。

だから、彼女は大事にしてくれと。すべての鉄道ファンに贈る作品と

いうことで()

 

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