兄と妹の穏やかなる日常




8月も後半に入ったものの、強い日差しは和らぐ気配が無い。

「暑いな・・・全く」

バイトを終え、俺・・・持田元は、自分のマンションへと戻ってきた。

カギをノブに差し込もうとして・・・ふと、違和感を感じる。

少し空けておいた窓。そこから流れてくるのは、美味しそうな匂いと少し調子っ外れ

な鼻歌。

聞き覚えのあるその声に苦笑しながら、俺はカギをポケットにしまった。

がちゃ、とノブをまわす。・・・案の定、開いてやがる。

「・・・ただいま」

「あ、お帰りなさ〜い!」

明るい声と共にキッチンから顔をひょこっと出したのは、セーラー服姿にエプロンを

つけた女の子。

「一人で居る時には、カギを掛けとけって言ったろ?全く、田舎の癖が抜けないん

だから・・・」

靴を脱いで上がりながらそう言うと、奴はえへへと笑ってごまかす。

彼女の名は風峰葵。俺の、妹だ。

妹とはいえ、半分しか血はつながっていない。・・・まあ、いろいろと複雑なわけだ。

「えへへじゃないだろ」

こつん、と広いおでこを小突いてから手にしていた紙袋をどさ、とおろす。

あ、やばい。

瞬間的にそう思ったのだが、時すでに遅し。案の定、速攻でツッコミがはいった。

「お兄様〜ひょっとして、また?!」

「あ、いや、これはだな・・・その・・・」

葵はつかつかとやってくると、紙袋をがさっと開ける。中から出てきたのは・・・。

「・・・885系。『白いかもめ』」

「ご明答!さすが、我が妹だっ!」

俺の趣味の一つである、鉄道模型。時々、安さにつられて買いあさってしまう。

部屋には、そんな戦利品が山のようにあり・・・。

何故か・・・いや、もちろん俺の影響なんだけど・・・女の子のくせに鉄道好きな葵。

そんな彼女も今日は、はあ、とわざとらしいまでのため息。

「お兄様・・・衝動買いはしたらあかんって、あれほど言うたでしょ!」

・・・妹が関西弁なのは、訳がある。って単に、関西生まれの関西育ちなだけだ

けど。

最近は俺に合わせてか、少し標準語が混ざっているが、興奮するとこうやって

元に戻る。

っていうか、きっと俺が時々関西弁になるのは、コイツの影響が大きいのだろう。

「いやあ、悪かったって、葵ちゃん?な、機嫌直して?」

そう言いながら頭をなでてやると、どうしてだか葵の怒りは収まる。

今日も、「今回だけですよ?」なんて言いながら、また鍋の元へと戻る彼女。

・・・我が妹ながら、単純だね・・・全く。

「いやあ・・・いい匂いだなあ・・・」

「もうすぐ出来ますからね!」

この匂いからすると、今日はミートソースのスパゲッティのようだ。もちろん、俺の

大好物。

また鼻歌を歌いながら料理をする妹を、俺はぼんやりと眺める。

ずっと関西と関東で離れて暮らしていたのだが、ひょんなことから最近、近所に住

むようになった。

それ以来、これまでの分を取り返そうとでもしているように、足繁く通ってくる。

料理の腕前は高校生にしてはまあまあ、といったレベルだろうか。

それにしても・・・年頃の女の子が兄のところばかり来ていていいものだろうか?

「・・・お前、彼氏作らないのか?」

「葵は、お兄様がいれば十分です〜」

・・・また、これだ。

友達からは『極度のブラコン』なんてからかわれているらしいけど、本人もそれを

認めてしまっているだけにたちが悪い。

「好きな奴とかは、いるのか?」

「ノーコメントです〜」

ハイハイ、そうですか・・・まあ、兄に話すことでもないだろうがな・・・と苦笑する俺。

そういえば、思い出したことがある。

俺は葵と同じきらめき高校に通っていて、ひびきの高校に編入したんだけど。

確か、きらめき高校にもひび高の『伝説の鐘』と同じような話があったような・・・。

「なあ、きら高の伝説・・・って何だったけ?」

葵は、ゆでたてのスパゲッティにミートソースをかけ、俺の前に置く。

それから少し首をかしげて、聞いた。

「・・・伝説?『伝説の樹』のこと?」

「ああ、それだそれだ!」

きらめき高校の裏には、一本の大きな古木がある。それがいわゆる、『伝説の樹』。

卒業式の日に、その木の下で女の子から告白して生まれたカップルは永遠に

幸せになれるという・・・。

覚えてるもんだな、意外にも。

「そんなことより、冷めますよ。はい、どうぞ」

「そんなことって、お前ねえ・・・」

冷めてしまうのは嫌だからとりあえず手をつけるが、高校3年でもうすぐ卒業だって

いうのに・・・。

全く、俺の妹は変わり者である・・・誰に、似たんだか。

「おいしいですか?」

「ん、うまい」

「よかった。はい、お茶も入れておきますね。そうそう、ちゃんとサラダも食べてね?」

「へいへい」

「野菜ジュースばっかり飲んでないで、ちゃんと野菜そのものをですよ!」

「・・・・・・」

ばれてるよ、全く・・・。

世話好きな性格は、俺と少し似てるかもしれない。高校ではサッカー部のマネー

ジャーをしているらしいし、いかにもコイツらしいな、と思う。

「・・・伝説、かなえられる相手を早く見つけろよ?」

俺のその言葉に、葵は大きな瞳を少し見開くと、困ったように笑った。

「じゃあ、紹介して?お兄様の、お友達を」

「俺の友達?!そうだなあ・・・」

俺は色んな友人の顔を、思い浮かべてう〜んとうなる。

考えてみると、意外にこう!と思える相手はいない。悩んでいる俺の姿に、葵は

満足そうだった。

「ね?お兄様以上にステキな男性なんか、そうそういませんって」

「・・・そういわれても・・・」

全く、実の妹に誉められて、何を赤くなってるんだ、俺は?

ごまかすように、思い出したことを言ってみる。

「あ、お前、確かこの間まで誰かと付き合ってたろ?」

お兄様は何でもお見通し・・・と続けようとして、気づく。

葵の表情が、露骨に変わったことを。

「・・・お兄様は、何でもお見通しやね」

その表情は一瞬で、よく見ないとわからなかったかもしれないけれど、すごく切な

げだった。

「・・・悪かった、な」

とりあえず謝ってみた俺に、彼女は苦笑して言った。

「両手を広げてくれている幸せじゃなく、追いかける幸せを選んだだけだから」

・・・難しいこと、言いやがる。

その、つまり・・・なんだ?終わったわけじゃあ、ないってことか?

「待っててくれてるんだろ?両手広げて・・・」

今度は、答えはなかった。


言えるわけがない、お兄様には。

好きになってはいけない人を好きになって・・・。あきらめる為に、よく似た感じの人

と付き合った。

でも、だめだった。好きにはなれたけど、その感情はこの想いを越えられなかった。

愛してもらっている。両手を広げて、待っててくれている。

だけどまだ、心の整理はつかない。

絶対に彼女にはなれないけど。それでも、ずっと一緒にいれるけど。

・・・この想いは、一生届かない。

だって、私は妹だから。いつか、兄離れをするその日まで。


ふう、食った食った。

「ごちそうさま〜」

「お腹いっぱい?」

「・・・チーズケーキなら、入る」

紅茶を片手に、これまた妹特製のチーズケーキにてくつろぐ。

「お兄様の彼女は、お元気ですか?」

「彼女って、え〜み?うん、元気にしてるよ」

「・・・会ってみたいなあ」

妹と、彼女の対面か・・・何か、くすぐったくて恥ずかしいな。

それでも、仲良くなって欲しいとは思うんだけどな。葵はやっぱり、こっちの生活

にはなかなか馴染めないようだし。友人は多いようだけど、こうやって俺にばかり

くっついているのもあまり面白くないだろうしな。

「じゃ、今度会わせてやるよ。そうだな・・・俺が常連の、喫茶店にでも連れて行こうか」

「喫茶店?」

「ああ。集まってくるやつら、いい奴が多いし。え〜みもウェトレスとして、働いてるし」

「・・・カッコいい人、いるかなあ?」

「お前ねえ・・・」

俺に妹がいることは、喫茶の連中にはもちろん、え〜みにすらまだ言ってない。

いや、別にあらためて言うことでもないかな・・・という思いが先に立ってるものだから。

「決めた!あたし、そこで彼氏作る!!」

「んな、力説せんでも・・・」

笑ってしまったけど、まあせっかく葵がその気になったのなら、放っておいてもいい

だろう。

喫茶でも俺べったりじゃ、え〜みの手前なんか気まずいし。

「まあ、協力してやるから。頑張って、兄離れしろよ?」

そう言って、葵の頭をぐりぐりとなでてやる。

「ふにゃ。ありがと〜☆お兄様v」

妹は、満面の笑みで答えた。

その笑顔を見ながら、俺はつくづく思う。

もしいつか、こいつが嫁にでも行くことになったら・・・それはそれで、寂しいだろうなと。

たとえ半分しか血はつながってなくても、俺の大事な妹に代わりはないのだから。


END

 


 

一番初めに書いた、ひび高での友人との話。友人と言うか・・・兄との話ですが(笑)

私たちが義理の兄妹だとか、私がきらめき高生だとかそういう設定は、北野隼人

さんとこの小説の設定をつかって書いています。

いやはや、それにしても公開するのは気恥ずかしいかもしんない(笑)

まあ、お兄様公認なんで良しとしましょう♪

 

 

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